かがみ

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大きなかがみ その前に立つと、わたしの姿がうつる うわべだけ装った、見せかけのわたし あり得ないくらいに綺麗なわたし ふとうしろを向く また鏡が一台 大きな大きな鏡 そこにうつるのは、すべてをさらけ出したほんとうのわたし あり得ないくらいに醜いわたし そんな二人を交互に見やる 彼女らは同じようで違うわたしの写し身 合わせ鏡には、その二人が無限に続いていく 見せかけのわたしがいる限り、裏には醜いわたしがいる またその逆も そんな合わせ鏡を見ていると、吐き気をもよおしてしまう 結局、どちらも醜いのに みんなはわたしを褒めるだけ褒め、飽きたら勝手に忘れていく そんな程度の存在なのだ、わたしは 合わせ鏡は、そんなちっぽけなわたしを延々とうつしてゆく いつからだろう、この鏡がわたしを写すようになったのは もうやめてくれと泣き叫んだりもした けれど鏡はわたしを写しつづける 鏡を割ろうと叩きつけたりもした、拳に血が滲むまで 鏡は割れる しかし合わせ鏡の向こうに写った鏡がまたわたしをうつしてゆく 流れた血はまた鏡に連鎖してゆく きりがないと気付いたのは最近 だから、わたしはこの合わせ鏡からの脱出を諦め、醜いわたしたちに囲まれながら生きることにした そうして幾度目かの夜が巡ってくる また鏡はわたしをうつす 醜い姿をどこまでも あらゆる角度から、その醜いわたしたちが歩み寄ってくる 手を伸ばし、わたしの肩を撫でた 瞬間の嫌悪感が身体を駆け抜ける 恐怖に怯えるわたし わたしを取り巻くわたしたち ああ、せめて月が隠れるまで 月さえ─光さえ消えてしまえば、鏡にはなにも写らないのだから けれど、皮肉なものである 呪縛から逃れようとわずかな光を求めれば、光は鏡を照らす でも、希望の光が無い漆黒の夜になれば、鏡はなにも写らなくなる わたしはどうすればいいのだろう 鏡に写るのを恐れて闇に堕ちてゆくのか それとも、光を求めながら鏡によって堕とされてゆくのか ──選べるはずもなく そしてまた、夜明けはやってくる──
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