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目を開けると、びっしょりと濡れた前髪から水が滴り落ちるのが見えた。
そのまま視線を上に向けると、空のペットボトルを傾けた男。
ジーンズに黒いTシャツというラフな恰好がよく似合う、やけに背の高い男だ。
鋭い視線が、腹ばいになった俺の全身に突き刺さる。
「愁ちゃん、呼んでも起きなかったから」
そう低く言ってペットボトルをごみ箱の方へ投げるのは、すっかり大人に成長してしまった、しかし間違いなく…正紀だった。
「身体は大丈夫?」
正紀は俺の横になるベッドの脇に腰掛け、馴れ馴れしく俺の濡れた髪を弄んできた。心底イヤそうな顔をして正紀の顔を睨んでやるが、正紀の方は気にしたそぶりを見せない。
「…大丈夫なわけ…ないだろ」
掠れた声でそう返してやると。
「そうだね…結構無理しちゃったし」
たいして悪びれた様子もなく、笑いながら言った。
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