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生前の記憶はしっかり残ってる。
僕、長野さとしは、非常についてないタイプの人間だった。
学生時代はと言えば、成績がいいわけでもなく悪いわけでもなく、目立ちもしなかった。
よくある文集でのアンケートでは、『優しい人』の3位なんていう中途半端な位置にいるような、いわゆるお人好しだった。
恋愛に関しても、これと言って自慢できるほどの経験もなく、2~3人と付き合ったものの、長くは続かなかった。
しかも、フられる理由は決まって「優しすぎる」だった。
高校を卒業して、たまたま入れた会社に入社をし、目標を持って働いていた。
そんなある時、学生時代に目立ちもしなかった僕は、思い切って上役へ意見をしてみようと思い立った。
人生で自分を変えようと振り絞った上で決心したことだった。
もちろん、会社のことも考えた上でのことだった。
…………
次の日からは俗に言う窓際族になった。
来る日も来る日も同じ仕事の繰り返し。
歩合制の給料が上がるわけでもなく、出世をする事もなく50歳を越えた。
こんな人間には当然のように出会いもなく、未婚のまま運命の日を迎えた。
趣味に打ち込めればよかったのだろうけど、唯一と言えるバイクも、日々の同じ仕事の繰り返しのせいで情熱が冷めていった。
53歳になった年、うちの会社も不況のあおりを受け、500人の解雇を決定した。
「奥さんや子供がいる奴らだってクビなんだよ。君は独り身だからまだマシだろう」
労いの言葉なんてものはなく、こんな言葉を浴びせられた。
その日の帰り道、頭の中は「これからをどうするか?」「自殺するか」などと自問自答しながら帰っていた。
結局、僕は富士の樹海、青木ヶ原を目指すことにした。
別に自殺することを決めた訳じゃない。小心者の僕だったら、樹海を見たら怖じ気付いて自殺を止めるかもしれないし、行ってしまえばもしかすると自殺出来るかもしれいと言う2つの考えが浮かんだからだ。
とりあえず行ってみるだけ…、そう思い駅を目指して歩き始めた。
その途中、居眠り運転のトラックにひかれて死んだ。
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