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即死だったらどれほどよかっただろう。
僕は苦しみながら病院に運ばれた。
血が足りないのか、頭がガンガンしていたのを覚えている。
悲しむ両親の顔を見ながら僕は「親不孝者だ」と感じた。
やがて、礼儀上、上司がやってきたが、母親は僕が今日クビになったことを聞くと、上司に食ってかかった。
「あなた達がクビにしたから息子は注意力散漫になって事故に巻き込まれたんじゃないですか!?」
「い、いえ、決してそんなことは…、そ、そうだよな?長野くん」
前から迫ってくるトラックに気づかなかったのは、頭がぼーっとしていたというのもある。
いや、見えてはいたのだ。周りにいた人の叫び声も聞こえていたし、事実、巻き込まれたのは僕一人だけだった。
トラックはずいぶん向こうから低木の街路樹を巻き込みながら迫ってきていたから、即死になることはなかったが、頭が冴えていたら避けれていたかもしれなかった。
しかし、僕はどれほどお人好しなのだろう。上司の問いかけに僕は首を縦に振った。
母親は泣き崩れ、父親は母親によりそっていた。
上司は心配した顔を作りながらも、内心ほっとしているのが見て取れた。
これで訴えられることもないし、会社に責任はなくなった。
そんな光景を見ながら僕は死んだ。
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