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安穏とした世界だった。
父がいて、母がいて。
昼下がりには庭の薔薇を世話する母に従いて、何を手伝うでもなく、母の美麗さに見惚れていた。
夕刻には父に連れられ、境外にて戦闘の手解き。稀に鉢合わせる悪獣など、父が一蹴してしまう。
父は強かった。
何時だって父は憧れの存在で、狼族歴代最強と謳われるその強さが、羨ましかった。
知らなかったのだ。
その強さ故に降り掛かる災厄。
その名故に問われる責任と、責務を。
何よりも、俺は無力だった。
夢を見ている事に気づいた瞬間が、
覚醒の合図らしい。
背丈が父を超しても、あの人には一度も勝てず仕舞いだった事を思い返す。と、微かに浮かんだ笑み。引っ掛かりの様な疑問を感じながら瞳を開くと、目の前には刹羅。
驚いた顔をしながら、彼女は部屋を振り反る。
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