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後六つ残った夜の内、
一つは酷く緩く過ぎていった。
赤と呼ぶにはもう、禍々しく濁ってしまった様に見える葡萄酒が、白々しい朝陽に照らされて揺れる。
「夜騎士…、少しは眠らないと…。」
ふわり、耳を揺らしながら気遣う刹羅。
その深い紅色の瞳を見上げるも、どういう表情をしたらいいのか、解らなくなった。
「あぁ…」
泳いでしまった視線をグラスに移す。
瞼を伏せると、不意に、髪を風が撫でた。
瞬間、頬に走る、痛み。
殴られたと把握した時には既に、最凶最悪かつ最強の嫌悪感の塊が眼前に居た。
「呆ケた顔をスるナ!!!!丘スぞ!!」
「全ての祝日より目出度い、貴様の葬式の日取り以外、お前とする会話はないから失せろ糞猫。」
腹の底から、低く、唸る様な声で言ってやった。密かに笑みを浮かべながら立ち上がると、何故か哀しげな瞳を俺に向ける刹羅。いや待て。何故俺をそんな瞳で見る。
「表にデるがイい。貴様の様ナ泥寧は、愛撫すル様にナぶリ殺シてやル。」
「変態は黙って牢に入れ。」
超重圧が肌を粟立たせる。慣れた感覚だ。
零の唸りは、それだけで、中堅層の戦闘員を殺せてしまう。糞猫は性格が悪いので、なぶり殺すのを選ぶだろうが。
思考する俺に向けられた、厭らしい零の笑みに、反吐が出そうになる。
「行くよ、夜騎士、零にゃ。」
刹羅が、ぱん、とひとつ柏手を打つと、零が詰まらなさそうに目線を離した。
何だ、欲求不満か。殺戮中毒者め。
「何処へ?」
唸る零を華麗に無視しつつ、シンプルな疑問を投げ掛けた相手、刹羅は、息を呑むほど奇麗に微笑んだ。
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