1437人が本棚に入れています
本棚に追加
川西君と私は付き合っていた。
入社してほどなく付き合い始め、そろそろ結婚だなんて、同期のみんなから騒がれていた。
―――半年前までは。
なのに………半年前、突然、別れを切り出された。
失恋の傷にカサブタも出来ないうちに、川西君はひとつ先輩の総務の人と婚約―――
先月、結婚した。
夏に子供が生まれるらしい。
同じ会社
同じフロア
同じ部署
別れてから、顔を見るのも辛かったのに。
声を聞くのも切なかったのに。
飲み会で会話してるなんて…
自分が信じられなかった。
まだ、カサブタの下の傷は少し痛むけれど……
半年前の私なら、すぐに逃げ出していたはず。
二人きりにならなければ、きっと…大丈夫だよ…ね?
洗面台の鏡に映る自分に問い掛ける。
頬を両手で包み……一拍おいてから、強めに叩いた。
中途半端な音が鳴り、じんわりと痛みがした。
気合いを入れ、トイレの重い扉を開けて通路を少し進む。
すると、さっきまで私の斜め前に座っていた顔があった。
「…か、川西君、どうしたの?」
みんながいる個室部屋までに気持ちを整えようとしていた私は、動揺しながらもなんとか平静を装った。
大丈夫。
そう、自分に言い聞かせて。
最初のコメントを投稿しよう!