隣まで後何メートルが良い?

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『結婚しました』 「…誰が、いつの間にこんなの撮ったの?」 口を吐いて出た、独白。 怒りも呆れも恥ずかしさも、全て飛び越えた響き。 「ただいま」 口煩く、言う癖を付けろと言われ、昔からの癖の様になる程、帰ってきた時の挨拶が定着した私。 で、肝心の相手は出掛けているのか、姿が見当たらない。 …ちょっとだけ恥ずかしい。 奮発して買ったソファーに腰掛ける。 ふと、ソファーの端に無造作に置いてあった、高野君の携帯が目に止まった。 危ないなと一人ごちて、何とは無しに開く。 ここ数年で随分と自分勝手になってしまった私の前に置いとく方が悪い。 途端、堂々と待受にしてる画像に度肝を抜かれる。 この背景から想定するならば、ついこの間、幼馴染み達で海へ遊びに行った時の写真。 最初は『海だ!』なんて、全員ではしゃいでいたが、時間が経つに連れ、各自勝手に遊び始めた。 その辺りのだろう。 高野君が横から私の肩に右腕を回し、私も珍しく左腕を高野君の肩に回していた。 悔しいが、身長差があるのでいびつな肩の組み合い。 まぁ、それは一向に構わない。 問題は、私と高野君の表情。 これ以上無いって位の、笑顔。 で、その上にデコレーションした文体。 たった一言シンプルに『結婚しました』。 何これ。 笑えない。 この顔は笑えない。 幸せそのものって顔。 「誰よマジで…。小淵沢ね多分」 顔が赤い気がする。 私は彼と居る時、こんなに満たされた顔をするのか。 しかも、真っ正面からのショット。 つまりは、気付かない程。 「たっだいま。あのスーパー良いね、野菜安かったよー。ところでさー俺の携帯知ら…ああああ!!ちょっと!それ!嫌ー見ないでぇっ」 ドアの開く音がしたかと思ったら、ポンポンと飛び出す言葉。 お帰りも言えない勢いで喋る。 買ってきた野菜に気を使ってるのか、慌てている癖に優しく野菜を玄関先に置いている。憎めない奴と言うのは、彼の事を言うのだろう。 私の手から携帯を奪う為、ドタドタ足音を立て、近付いて来た。 力任せに、引ったくって行くかと思いきや、目の前で立ち止まり、両方の掌をこちらに見せた。 「返せよ」 何なのよ。 強く出て来ないのがムカツク。 悪いのは私でしょうが。
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