風が、ない。

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いきおいをつけて起き上がった。 ヒロムは骨董品屋『今昔』で店番のアルバイトをしている。 店番といっても、ここで働き始めて一ヶ月、まともに客が来たことはない。 客なんか滅多に来ない楽な仕事だ。 面接の時に店主にそういわれた。その通りだと思う。 納戸から掃除道具を出し、掃除を始める。 はたきをかける。床を掃く。 本当は拭き掃除もしたいところではあるが、あまり磨きあげてしまうと良くない気がして我慢している。 この仕事は嫌いじゃない。 この店も。 ヒロムは童貞だ。 普通の大学生だ。もうすぐ二十歳になる。 彼女がいたこともあるが、肉体関係を結ぶには至らなかった。 縁がなかったのだと思う事にしている。 ここの骨董たちも、殆んどがデッドストックものだ。 かつて生活の中で使われていたモノもあるが、ごく一部。 田舎の金持ちコレクターとかが死んだ時に蔵ごと買ってくるのだとか。 ここは趣味に偏っていて、ヒロムは居心地の悪さを感じる。 自分も今昔の骨董に似ている、と思うからだ。 誰からも選ばれずに年月を過ごしている。 ひっそりと、ただ待っている。 誰かがやってきて自分を見てくれる事を願っている。
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