風が、ない。

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車などなくても充分に便利に生活できるのに。 そう思いはするものの、いつかは就活するのだ。 例え一生運転しなくても、免許位とっておかねばならない。 カラン、と軽い下駄の音をさせながら老婆がやってきた。 近所の煙草屋の老婆である。 ヒロムもほぼ毎日、そこで煙草を買うのだが、毎回ヒロムの素性を訊いてくる。惚けているのだ。 だが、いつも乳酸菌飲料をヒロムにくれる気の良い老婆なのだ。 「春君ね?」 「違います。」 「春君やろうもん。店番しとらすと?」 「ただの店番です。昨日もお宅で煙草買いましたよ。」 老婆は笑った。 「そげんこというてから。お父さんにいうばい。まだ20になっとらんくせに。」 否定すると長くなりそうなので、話を変えることにした。 「何の用ですか?」 「用?あーあー、これば見んしゃい。」
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