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私はとっさに廊下に飛び出し、鞄の中から水晶のドンコウを取り出した。
ドンコウとは、密教で用いられる道具で数珠の何倍もの効力がある秘物である。
そして、そのドンコウを左手で握りしめ、一心に真言を唱えた。体中がガタカダなる…部屋からは相変わらず彼の叫ぶ声が聞こえている。
ここが病院じゃなかったら…看護婦さんがいなかったら…思いっ切り闘えるのに…❗❗歯痒かった❗❗悔しくもあった。けれど、もし私が本格的に彼の除霊を始めたら、看護婦さんに止められ、怒られ、つまみ出される…。現代医療の中では、除霊なるものは空想であり、症状を悪化させる以外の何者でも無い❗❗いわゆる治療の妨げになる行為だからだ…。そんなことはわかっている…。けれど、今目の前にある私にしか見えていない現状を放置は出来なかった。
だからあえて死角に入り真言を唱えたのだ。
せめて彼が自分を無くさないよう力を貸す…それがその時の私の精一杯だった…。
結局、私達は彼に部屋を追い出され、悔しい思いをしながら来た道を戻るしか無かった…。
私は負けたのだ。相手は卑劣な手をつかい、人間社会を把握し、どうすれば生き延び、力を保ち続けることが出来るか計算ずくなのだ。
悪魔に魅入られた彼の魂は、黒い鎖で縛られ、永久に解放されないかも知れない…。
いや…もしかしたら、彼自身がそれを望み、閉じこもっているのかもしれない。
悪魔に魂を捧げたのかもしれない。
黒き契約のもとに…
病院を出た後、私は友人に
「今は手出しが出来ない。彼が退院したら本格的にやる。それまでに今以上に強くなってみせる。」と言った。
私は白い大きな建物に念を送った。
早く出てこい…❗と。
必ず潰してやる…❗と。
私の念を受け取った悪魔は、きっとほくそ笑んだのだろう…。
貴様には俺は倒せん…と。
事実、今この話しの友人とは絶縁状態にある。今、あの彼がどこでどうしているのか知る術は何処にも無い。
何故なら、私は彼の名を知らない。住んでいた家もわからない…。
悪魔はこうなることを知っていたのかも知れない。
あるいは、奴らの手中でおどらされて居たのかも知れない…。
黒き契約は絶対だ。
皆さんに言いたい。どんなに辛く、苦しい事があったとしても、決して悪魔を呼出し、黒き契約を交わしてはいけない❗
絶対に❗❗
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