自分

4/28
前へ
/212ページ
次へ
コツコツと音を立てる、先生の足音。 それが俺の席の前で止まった。 反射的に顔を上げると、腕組みをし、怒りに満ちた表情を浮かべている先生の姿があった。 「君、入学式早々…。」 「触るな!」 先生の注意を遮って、怒鳴ってしまった。 突然のことで困惑しているのか、先生は仕切りに脂ぎった手で、分厚い黒眼鏡を直している。 今さっきまではざわついていた教室。 嘘のように静かだ。 ただ、冷ややかな目線だけが俺に向けられていた。 鋭利な刃物を思わせる、クラスメイトの視線が痛い。 何故理由も無しに怒鳴ったのか。 いや、理由ならある。 “他人に触れられた” そう、他人に触れられたから。
/212ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加