第二章

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家に着き、シャワーを浴びてベットに倒れ込んだ。 彼の両親は、仕事の関係で今は海外に出張へ行っている。 ここ一年程、悠は一人で暮らしていた。 だが、昔から忙しい両親の代わりに家事全般をこなしていたために、その生活に不便を感じることはなかった。 これぞギャルゲ設定。 満身創痍でベッドに倒れ込んだ悠は、瞬く間に眠りについた…。 ―見覚えの無い場所。 そこには昨日の彼女がいた。 昨日自分に浮かべた微笑をそのままに、こちらを見ている。 悠は彼女に手を伸ばそうとする。 が、その手は虚しく空を切る。 彼女に触れようと近づけば近づく程、彼女との距離は遠ざかる。 走っても、走っても、その距離は平行線のまま。 彼女に近づく事は出来ない。 それでも走る。 彼女を追って。 走る、走る、走る、走る― 「待って!」 そう叫び、目を覚ました。 無意識の内に現実でも手を伸ばしていたことに気づく。 辺はもうすっかりと暗くなっており、窓から差し込む太陽光はもうなかった。 電気を点け、着替えていると、一階から物音がしていることに気がついた。 血の気がさっと引く。 ―鍵…閉め忘れたか? 不安になった悠は部屋にあったバットを握りしめ、慎重に階段を降りる。 息を殺し、耳を澄ます。 物音の正体は、掃除機の音だった。 居間から掃除機の音がしている。 頭の中でテレビショッピングのテーマが流れ始める。 ―はい、見てくださいこの吸引力!今ならこの性能でこの低価格! さ!ら!に!なんと特典で一人暮らしの時に掃除機を勝手に掛けてくれる不審人物もお付けします!どうです?!すごいでしょー!? 「…そんなもの買った覚えは無い」 階段を降りきり、深呼吸して気を落ち着かせる。 覚悟を決めて勢いよくドアを開けた。
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