第三章

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朝、異様な臭いがして目が覚めた。 どうやら、臭いは一階から漂っているようである。 悠は臭いの元凶を突き止めようと、階段を降りて居間に入る。 その瞬間、悠の鼻を劇薬の如き刺激臭が襲った。 「む、むぐぅ!」 急いでドアを閉め、洗面所から取ってきたタオルをガスマスク代わりにして居間へと再突入する。 鼻へのダメージは防げても、目に激痛が走る。 涙を流しながら臭いの元だと思われる台所へ向かった。 台所のガス台の上に置かれているフライパン。 それが異臭の元だった。 何故か油が煮えたぎっているフライパンの中では、なんとも形容しがたい暗黒物質が禍々しきオーラを漂わせて大胆不敵に鎮座している。 「なに…これ」 取り敢えず火を消すと、どういう反応を起こしたのか、フライパンから白煙が立ち上ってきた。 その煙が悠の目に入る。 「…目が!目がぁあああああ!」 このガスがもし第二次世界大戦で使用されていたなら、将来は変わっていたかもしれない。 タオル越しでもあり得ない程の刺激臭が伝わってくるそれは、マスタードガスも比較にならない威力だった。 溢れ出る涙を必死で堪え、周囲を見回す。 すると、昨日成り行きで同居する事になった幽霊、逢沢朝日がそこで踞っていた。 悠は取り敢えず窓を開け、換気をする。 新鮮な空気が肺一杯に染み渡った。 彼女は悠に気づくと、目に涙を浮かべて話し始める。 「あ…あの…す、スクランブルエッグを作ろうとしたんです…。ちゃんと…本に書いてある通りにやったつもりなのに…」 悠は机の上にある本を手に取って読む。 なるほど、確かにそのページにはスクランブルエッグの作り方が載っていた。 ―油を使うなんて一文字も書いてませんがね。 幽霊にしか読めない特殊なインクでも使われているんだろうか…。 そもそも、油を使っただけでこんな有毒ガスが出るはずが無い。 というより、家にそんな危険物存在しないぞ。
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