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だが、そんな悠長な事を言ってられない現在の状況。
―みなさんは勘違いしている。
今、私にとっての危機は、ドアの外の気配が近づいてきていることではない。
郵便受けか指が見えていることでもなければ、窓の磨りガラスに顔がへばりついていることでもない。
そんなこと、今瀕している危機に比べれば赤子の手を捻りながらパイルドライバーをかけ、バックブリーカーでとどめを刺す程容易い。
そう!
我が家には今!
あのインフィニティストマックを養うだけの食料が無いのだ!
「行かなければいけない…この命に替えても!」
悠は決意を固めてドアノブに手をかける。
すると、玄関の外の気配がいつの間にか消えていることに気がついた。
「あ…ありゃ?」
恐る恐る外へ出てみる。
何故かだろうか、幽霊達は元の場所へと戻っていた。
しかも、こちらを見ては目をそらしている。
先ほどまでとは百八十度違う状況だった。
「それはそれで傷つくな…」
まるで一人だけ省かれた気分になる。
さっきまであんな興味津々だったのに、この変わり様は一体なんなのだろうか。
だがしかし、これがプラス方向の出来事な事は明確だった。
今の内に買い物へ行ってしまおうと、足早に歩く。
暫く歩いていると、後ろから声がした。
「お兄ちゃん…」
―な、何も聞えないぞ俺は。
振り向いたら服が血まみれだとかの少女へ砂場へ強制連行され、干涸びるまでままごとをさせられるパターンだ。
「お兄ちゃん!」
―き、聞こえなーい。
そんな死亡フラグビンビンな呼ばれ方には反応しないのですー。
「んもぉ…悠兄!」
「え…?」
悠は自分の名前を呼ばれて振り返る。
悠兄…懐かしい響き。
もう聞く事が出来ない、その言葉。
過去の記憶が悠の脳内にフラッシュバックする。
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