第四章

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ある日、悠の家に掛かってきた1本の電話。 「交通…事故…?」 その電話は、ミツキが車に跳ねられて現在意識不明の重体、生死の境を彷徨っているという事実を悠へ告げた。 頭に殴られた様な衝撃が走る。 目の前が白くなり、目眩がした。 悠は思わず受話器を取り落とし、その場にへたりこんだ。 だが、その受話器から聞える声で我に返る。 ミツキの母親は、ミツキの病院名を告げていた。 走った。 力の限り走った。 途中、幾度も転ぶ。 ジーンズは破け、むき出しの膝からは血が滲む。 しかし、悠はそれを気にもかけず、ミツキの元へと駆けた。 ―ここで止まれば、もう…ミツキに会えない気がする。 だから、悠は止まらず、ひたすらに走り続けた。 …病院のベットに、小さな少女は横たわっていた。 体中に管がつながれ、その顔にはマスクが着けられている。 部屋の中には、無機質な信号音、機械の駆動音が響いていた。 「ミツキ…」 息を切らしながら、悠は少女の小さな手をそっと握る。 だが、彼女の手に反応はない。 生きろ! そう叫びたかった。 悠の手に力がこもる。 「神様…」 思わず呟いた。 だが、神などいるのか。 もし神がいるとしたなら…何故、ミツキがこんな目に遭わねばならないのか。 そう思った時だった。 「悠…兄…?」 彼女の唇が、弱々しく動いた。 「ミツキ…!」 「悠兄…ごめん…ね?」 「いいから喋るな…安静にしててくれ…!: 「私…ね…悠兄に…会えて…良かっ…た。ほ…本当…に…」 「わかったから…!喋るなって…!」 悠の目から止めどなく涙が溢れ続ける。 「悠…兄は…ずっと…ずっと…私の…お…お兄ちゃん…だよ…ね…?」 「当たり前だろ!ずっと傍にいてやる!だから…だから生きろ!頑張れ!」 「え…へへ…良か…った…お兄ちゃん…?大好き…だよ…」 彼女は弱々しく、だがとても可愛らしく、いつもの微笑みを浮かべた。 それは、ミツキの精一杯の笑顔だったのかもしれない。 彼女はその後、息を一回大きく吸い込み―
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