✨ビンタのご褒美は✨

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  遼子の顔からすうっと笑顔が消える。 そして、あまり見せたことのない真剣な顔が、わたしを真っすぐに見ていた。 「気になってるでしょ、彼のこと。 でも……痛い思いしたばかりだから、気にしてないフリをしてる」 「……」 「いいじゃない、名前知っておくくらい。 お守りにしなよ。 強くなるお守り。 縁結びになれば最高だけどね!」 「遼子……」 わたしはもう一度名刺を見る。 スーツ男の名前は、柊吾……。 ……柊吾さん。 あの冷たい表情が、スーツ姿が、キレイな食べ方が胸によみがえる。 この前の『ええ』という返事。 ほんの少しだけの微笑。 とくん、とくん、とくん……。 心臓の鼓動が耳元で聞こえる。 心地よいどきどき。 そうか。 わたしは柊吾さんに憧れていたんだ。 名前すら知らない人に。 何も知らない人に。 でも……この心浮きたつような気持ちは嘘じゃない。 どうしようもない失恋をして臆病になってたのかな。 だから、自分の恋心を拒否していたのかな……。 なんか気持ちが楽になっちゃった。 憧れて、どきどきするのは自由だもん。 「ありがとう、遼子。大切にする」 遼子は、うんうんと大きくうなずいて『ケーキも奢ってあげる』と言った。    
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