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その日からわたしは、少しずつだけど意識しなくても自然に笑えるようになっていった。
トワは相変わらず飄々とマイペースで仕事をしている。
その姿がまだ勘に障ることはあったけど、それよりも、素直な気持ちで柊吾さんの来店を喜べる自分が嬉しかったから、トワの存在自体のストレスはずいぶん減ってきていた。
わたしの心のもちようが変わったからといって、柊吾さんの態度が急に馴々しくなったり、明るくなったりすることはなかった。
作り物みたいなキレイな横顔を見せて、低い声でオーダーをする。
笑顔になることもなかったし、彼から声をかけてくれることなんて、間違ってもなかった。
それでもよかったんだ。
こんなふうに自分から憧れて、どきどきすることって今までなかったから。
指輪はしてないけど、もしかしたら結婚してるかもしれないし、恋人がいるかもしれない。
うん。いない方が不自然かも。
期待しないぶん、気持ちはすごく自由で楽だった。
柊吾さんがきてくれるのを心待ちにしている時間が、一番わくわくして幸せだった。
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