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馬鹿みたい。
優等生なコメント。
こんなの読みたくない。
耐えきれず、パタン、と雑誌を閉じる。
どうせ、若くてかわいいモデルかアイドルの彼女がいるに違いないのに。
そして、再びコンビニ弁当に箸を移したところで、肩にポンと手が置かれた。
「ねえねえ、秋川さん」
いつのまにか後ろに立っていたのは、雨宮さんという私より年下の派遣社員。
私の肩に置かれた指は、綺麗にマニキュアが施されており、彼女が女として『売り出し中』であることがうかがえた。オフィスで許される範囲内で綺麗に化粧した顔に、「優しそうな笑顔」を貼り付けている、私も必死に笑顔を作って答える。
「なんですか?」
「もしかして、『Wake』好き?」
「え、いえ、好きでも嫌いでもないですけど……」
努めて無表情で答えた。本当のことは、言えやしない。
『Wake』の藤波葉のファンだなんて知られたら、「面食い」の烙印を押される。いい年して夢ばかり見ているから、結婚どころか彼氏もできないんだって、そう思われる。
だから、絶対に知られたくない。
「そうなんだ。あのね、よかったら週末コンサート行かないかなと思って。友達が急に行けなくなったの。他の子もみんなダメだっていうし。あ、私、『Wake』のファンクラブ入ってるの。27にもなって恥ずかしいけどね」
雨宮さんは自嘲気味に笑った。
27にもなって……。
その言葉が、33歳の私の心をえぐった。
その一方で、コンサートという言葉に、つい反応してしまう。そういえば、藤波葉は歌手なんだから、コンサートに行けば生の彼が見れるのだ。余分なお金も、一緒に行ってくれる友達もいない私には縁のないものだと思っていた。
「いいですよ。私でよければ、一緒に行きます……」
そう答えると、雨宮さんは私には少々わざとらしく聞こえる歓声を上げた。
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