375人が本棚に入れています
本棚に追加
二人の話を思い出して、彰文は焦った。
(もしかして、今一緒にいたのが菅生律か?)
嫌な予感が脳裏に過ぎる。
彰文は慌てて二人の後を追い駆けた。
どうやら二人は逆方向へと向かう電車のホームにいて、笑いながら何かを話している。
(春日の家はそっちのホームじゃないって聞いていたけど・・・。)
和臣の家は翠嵐学園の最寄駅である。
初めて会話を交わした時、お互いがどこに住んでいるかを話したことがあった。
それを思い出しながら彼らの後をつけていた彰文は、二個先の駅に下車した。
途中、自然公園らしき場所に入ると、彰文は二人を見失ってしまった。
「あれ?どこに行ったんだ?」
慌てて公園内を駆け回っていた彰文はその場に立ち止まった。
そして、目の前の光景に目を疑ったのである。
彼の目の前では、和臣が律とキスをしながら熱い抱擁を交わしているの姿だった。
互いに角度を変えて、二人は情熱がこもったキスを交わしている。
(春日が変わったのは、恋人が出来たから?しかも、菅生と?)
衝撃が走った。
それは同時に、彰文のが和臣に恋をしていたこと。
和臣への恋が始まることがないまま、失恋したのだという残酷な事実でもあった。
呆然となったまま、二人がキスしている光景を見ていた彰文は、ポケットに入っていた携帯のバイブによって、我に気付いた。
そして気付かれないようにその場から離れると、自分の心臓が爆発するような激しい動きをしていることに気付いた。
「俺は何でショックを受けているんだ?春日が男と付き合っているから?それとも、俺は・・・・。」
深呼吸をしても、心臓は落ち着いてくれない。
どうしたらいいのか判らない。
彰文はバクバクと激しくなっている心臓を止めることが出来ないまま、自宅へと帰った。
携帯のバイブは電話で、富美江からだった。
成績が落ちたことで、塾の他にも家庭教師をつけることになったのだ。
多分、早く帰って来い!というコールなのだろう。
だが、今の彰文の状態では何も手が付けられない。
最初のコメントを投稿しよう!