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何も出来ないまま、高校受験に突入した。
彰文自身は地元の公立高校へ進学を希望していたが、富美江が決して許してくれなかった。
彼女の望みは『私立の医学部のある付属の高校』だ。
それ以外は決して許さないと言い張った。
(母さんに逆らったら、どうなるんだろう・・・。)
初めて、彰文の心の中に浮かび上がった『拒絶』という名の自我。
今まで操り人形のように生きてきた彰文にとって、それは大きな賭けになった。
受験に失敗したら、解放されるかもしれない、と・・・。
そして合格発表の日。
第一志望の高校は落ち、滑り止めで受けていた公立松蔭高等学校は合格した。
彰雄は『松蔭に合格しただけでも凄いぞ!』と誉めてくれたが、富美江は違った。
「どうして私の言う通りにしてくれないのよ!」
泣き叫び、そして彰文に初めて暴力を振るったのである。
頬を引っ叩き、髪を引っ張り、息子に対して罵倒する。
当然、彰雄が必死になって富美江を止めるが、この時。
彰文の心の中には小さな傷が生じたのである。
『操り人形は自ら糸を切って動いてはいけない。』
富美江が必要なのは『何でも自分の言う通りを聞いてくれる人形』なのだ。
絶望のまま、松蔭に入った彰文はある出会いをした。
「お前、何しらけた顔をしているんだ?鬱陶しい奴だなあ。」
「えっ?」
教室にいたくない彰文は、誰もいない屋上の日陰で読書をしていた。
高校に入った途端、富美江の命令で進学塾に入った。
そして毎日が塾と学校と家の往復という生活を送っていた彰文は、自分が何のために生きているのかを毎日のように考えていた。
読書をしても答えは見つからない。
(見つかるなら、とっくの昔に見つけているよな・・・。)
フッと笑いながら、しおり代わりに挟んでいたテストの結果票に視線を向けて、思い出していた。
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