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そのため、彰雄も強くは富美江を責めることが出来ない。
結局は彰文一人が、富美江の相手をしなければいけないのだ。
殴られ、ヒスを起こされ、命令通りに動く。
本当に操り人形だ。
誰が糸を切ってくれるのかもしれない、操り人形はこの先、自由に生きていけるのだろうか?
平手打ちをされた時に口の中を切ったのか、血特有の鉄の味がする。
部屋に戻り、ベッドの上にうつ伏せになる。
泣きたい衝動に駆られるが、絶対に泣かないと決めていた。
泣いたら富美江の癇に障り、怒りを煽ってしまうからだ。
「俺は本当に、何のために生きているんだろう・・・。」
過度な期待を押し付けられてからずっと口にする言葉。
どんなに口ずさんでも、誰も答えを教えてくれない。
自分も解らない。
彰文は自然に瞼を閉じると、そのまま眠りの世界へと誘われていくのであった。
季節は巡り、十一月になった。
校庭の広葉樹の葉は色とりどりに染まっていき、風も冷たくなっていく。
学園祭も無事に完了し、後は期末試験のみという時期に、和臣がある話を彰文に持ち出したのだ。
「なあ、生徒会役員に立候補してみないか?」
「?何で?」
彰文は驚きを隠せなかった。
一応、来年の二月に開催する生徒会選挙に出るつもりだった彰文は、和臣からその話を持ち出されるとは思ってもいなかったのだ。
しかも来年は、三年毎に開催される私立翠嵐学園との合同学園祭がある。
それもあって、選挙管理委員から立候補が一人も出てきていないという泣き言を聞いているので、チャンスなのかもしれない。
躊躇っている彰文を見て、和臣は言った。
「俺が副会長に立候補するから、彰文は会長に立候補しろよ。」
「俺が?」
「ああ。ちゃんとサポートするからさ。」
「・・・・。」
そう言った時の和臣の笑顔は、悪戯っ子のような笑みだった。
彼の申し出を断る理由はない。
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