何のため?

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(羨ましい。春日みたいな強さがあれば、俺も今頃は・・・。)  操り人形にはならなかったのかもしれない。  この日から彰文が和臣を見る目が変わりつつあった。  友情なのか?  それともそれ以外の感情か?  自分でも判らない感情が、彰文を支配する。  その影響か、成績もどんどんと落ちていき、生徒会室にも行く気力が起きない。  和臣は友達で、生徒会の仲間なのに、どうして他のメンバーと喋っている姿を見ると、嫌な気分になるのだろうか。  どうして『春日は自分だけのものだ!』と独占をしたくなるのだろうか。  意味が判らなかった。  憧れている部分はあるかもしれない。  誰の前でも臆することなく、自分を貫いている和臣に対して、彰文は自分がないものばかりだと彼ばかりを目に追っていた。  季節は九月に入った時のこと。  三年に一度の合同学園祭が迫っており、対処に追いついていけなくなった彰文は、和臣に泣きついた。  九月の中旬になった頃、突如として和臣が生徒会室に顔を出さなくなったのである。  彼は副会長だ。  最初の頃は『春日なりに事情があるんだろう。』と思っていたのだが、開催まで迫ってくると猫の手も借りたいぐらいだ。  このままではまずいと思い、携帯に連絡をしたが留守録センターに繋がられる。  仕方なく伝言を残し、彰文は和臣が戻ってくるのを待った。  数日後、和臣が生徒会室に姿を現したのだが、久々に見たせいか、元気がなかった。  元々、喜怒哀楽が激しい和臣だが、この時ばかりは気持ちの浮き沈みが激し過ぎて動揺が隠せない。 (春日に何があったんだ?)  生徒会の仕事を終えて、塾の冬期講習を申し込みに向かっていた彰文は、歩きながら考え事をしていた。  それがまずかったのだ。  赤に変わっているのにも気付かず、横断歩道を渡ってしまった彰文は、バイクに跳ねられて足を骨折してしまった。  全治三ヶ月。  入院が余儀なくされた。  当然、富美江が血相を変えて病院に駆けつけたのだが、開口一番。 『大事な時期に交通事故に合うなんて!面倒を掛けるんじゃないわよ!』  冷たい言葉だった。  期待しているわけではない。  ただ、怪我をして入院をしている息子に優しい言葉を掛けてもいいのでは?と、子供ながらに思ってしまう。  しかも凄いところは、怪我をしたことで連絡をしてきた和臣には泣きの演技をしたのである。
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