いつか、その手を掴む時

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  服を全て脱ぎ捨てると、洋服から繰り返し吸った煙草の匂いがした。 自分で吸った煙草の匂いに軽く顔をしかめ、乱暴に洋服を丸めると洗濯機へ放り込んだ。 浴室に入ると、冷たい床の感触を素足に感じる。 コックを捻るとわざと熱いお湯を全身に浴びせた。 少し熱いくらいのシャワーで気持ちを落ち着かせる…。 これが私の儀式だから。 『お前と居ると疲れるんだよ。』 シャワーの水音の合間に、不意に耳元に聞こえた声。 私は大きく首を振り、無心で髪を擦る。 (私だって疲れたんだ。) 唇を噛んでは台詞を飲み込み、ただいつもより長く髪を洗い続けていた。 (恋の終わりなんていつもこんなもん。) 諦めにも似た言葉を呟きながら浴槽に体を深く沈めると、何度もその言葉を復唱し自分に言い聞かせる。 潤いなんてとっくに失った長く伸ばした髪の先を指に絡ませ、その毛先に自分を見ていた。 …私はゾンビの様に何度だって息を吹き返し、また懲りずに新しい恋をしてしまう。 終わる度に… 『もうしません。』 と子供の様な嘘八百の反省を呟いた後に…。 『馬鹿だな』の言葉のトゲを胸に刺し、縋る様にまた…もう一度。
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