674人が本棚に入れています
本棚に追加
「この時計、買っとけい! なんちゃって! ハハ!」
まん丸で、ボールのような、とても時計には見えない物体を抱えて、巧(タクミ)は言う。
残念ながら、ハハハと空笑う気にもならなかった。
「時計なら、家から持ってきたやつがあるから必要ない」
「おいおい、色々とスルーし過ぎだろ……お兄さんは寂しいよ」
このお兄さん面をする長身ボサボサ頭の靴下履かない男は、俺がこの春から行くことになった大学の先輩だ。同時に古くからの幼友達でもある。
お互いに隣近所に住んでいたが、2年前に巧が大学進学の為に地元を離れたきり、顔を合わせていなかった。
親元を離れ、憧れの一人暮らしのスタート。かと思いきや、この巧と同じ大学で、しかも借りたマンションも同じという、腐れ縁。
「でな、この時計は時間になるとゴロゴロ転がって、起こしてくれるんだ。すごいだろ?」
今日の買い物の目的は、新たな生活にあたって、小物を揃えることだ。
決してボールなんかを買いにきたわけではない。
「璃生(リオ)、聞いてるか?」
「ほっとけいの下りから全っ然聞いてない」
「酷すぎる、しかも『買っとけい』って言ったんだけど」
「同じようなもんだろ」
最初のコメントを投稿しよう!