Episode01-手のひらから彼女-

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「この時計、買っとけい! なんちゃって! ハハ!」 まん丸で、ボールのような、とても時計には見えない物体を抱えて、巧(タクミ)は言う。 残念ながら、ハハハと空笑う気にもならなかった。 「時計なら、家から持ってきたやつがあるから必要ない」 「おいおい、色々とスルーし過ぎだろ……お兄さんは寂しいよ」 このお兄さん面をする長身ボサボサ頭の靴下履かない男は、俺がこの春から行くことになった大学の先輩だ。同時に古くからの幼友達でもある。 お互いに隣近所に住んでいたが、2年前に巧が大学進学の為に地元を離れたきり、顔を合わせていなかった。 親元を離れ、憧れの一人暮らしのスタート。かと思いきや、この巧と同じ大学で、しかも借りたマンションも同じという、腐れ縁。 「でな、この時計は時間になるとゴロゴロ転がって、起こしてくれるんだ。すごいだろ?」 今日の買い物の目的は、新たな生活にあたって、小物を揃えることだ。 決してボールなんかを買いにきたわけではない。 「璃生(リオ)、聞いてるか?」 「ほっとけいの下りから全っ然聞いてない」 「酷すぎる、しかも『買っとけい』って言ったんだけど」 「同じようなもんだろ」
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