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夜空に浮かぶ月だけが頼りになる時刻、世界が静けさに包まれる中、ある一国の王宮から悲鳴が木霊した。
どしゃり、と音をたてて倒れた兵士の武器である剣を無言で奪った少年の周囲には、もはや息をしていない兵士の死体が所狭しと並んでいる。少年は、剣に付着した血を服で拭うと、視線の先にいる生き残りを睨みつけた。
「デルフォール・ジーク……貴様が何者かは、もはや問わん。私が斬り捨てる!」
兵士は、剣を上段に構えてジークと呼ばれた少年と対峙した。
月光のみの視界は、兵士にジークの顔を見せたくないかのように、その輪郭のみを照らす。
表情を読み取れない状況は、兵士にとって緊張を張り詰める効果をもたらした。
冷や汗が顎を伝い地面に落ちた瞬間に、ジークの両肩が小刻みに上下した。
「貴様、何を笑う!」
兵士は、まるで合図のように走り出した。
しかし、数メートル程を進んだ時、ジークが隣を通過する。
あまりの速さに、兵士の体中から汗が流れるが、構わず振り返り
「どうした!私に臆したのか!」
挑発的な発言にも関わらず、ジークは無視して歩みを止めない。そのまま、先程まで兵士が立っていた奥にある扉を開いた。
「ま……て?」
兵士が制止のために踏み出した一歩で、胸に穴が空いた。
噴水のように吹き出した己の血液に、がっくりと膝をつき倒れた兵士は、唯一動く顔を上げる。
視界に入った光景は、自身の仕える主にジークが凶刃を突き刺した光景だった。
同時に、ジークの狂気をはらんだ笑い声が響きわたり、兵士の慟哭は掻き消しされていった。
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