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‥などと呟きながら朝食を食べる。
『あら、学ランも似合うわねぇ』
洗濯物を干していた母が俺に気付き、そう言ってくれた。
『こんな顔に産まれなければもっと恰好良かったんだけどな』
それを嫌味で返す辺り、相当ヒネた性格をしている。
自分で言うのもなんだが、どうも俺は少々残念な顔に産まれてしまったらしい。
鏡を見ると思わず溜め息が出る。
そしてなぜか母から勝手に髪を切る事を禁じられていた。
なぜかはわからないが。あまりに伸びてくると母が切ってくれたが、それでも常に肩下くらいは有った。
母譲りの髪の毛は細くて柔らかく、色素の薄い綺麗な栗色で、サラサラのストレートは前髪ですら目に掛かる程度に長い。
後ろ髪なんて、酷い時は腰の上まで伸びる事もあった。
流石にそこまで来ると、母の良識を疑ったが。
あら不思議。ずっと長男だと思ってたけど、実は私長女だったのかしら。
なんて学校でぼやいたら皆に笑われた。
もちろん女でもないのに髪を伸ばすのが嫌だった俺は、一度だけ母に内緒で美容院に行った事がある。
肩に付かない程度にカットしてもらい、意気揚々と家に帰り、母に見せた瞬間。
平手打ち‥が飛んでくるならまだ良かったのだが、母は悲しそうな表情を見せ、俺を抱きしめながら
泣いていた。
この時初めて見た母の涙に、酷く胸が痛かった。
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