29人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
犬の散歩中らしく、手づなを引いて、犬が用を足し終えるのを待っている。
「こんな寒い中、大変だな」
と思った。
ふと見ると、その人はズボンの丈が合っていない。
スネが丸見えで寒そうだ。
紺のダウンジャケットを着て、ファー付きのフードを頭まで被っている。
その人の横を通り過ぎたときだった。
「わん」
犬の声とも、人の声ともとれないような声。
むしろ音だったのかもしれない。
少し驚いて、おれは振り向いた。
穴だった。
黒い穴が3つ。
そいつの顔であろう場所にぽっかりあいている。
穴のような目と、穴のような口……。
背筋に悪寒が走った。
猛スピードで自転車をこいだ。
川沿いをひたすら走り、1つの橋を超え、2つ目の橋を超え……何か嫌な予感がした。
振り返ると、追いかけてきている。
距離は遠のいたが、そのまま夢中でペダルをこいだ。
アパートに着くころには、そいつはいなくなっていた。
最初のコメントを投稿しよう!