つんつるてん

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ドアの向こうに立っている。 下の隙間から覗くと、丈の合っていないズボン……。 「つんつるてんだ」 あいつは、しばらくその場で動かないでいた。 すると。 ……ドンッ ドアのたたく音。 ……ドンッ ……ドンッ ……ドンッ いや、叩くというよりかは、何かをドアにぶつけている。 ……ドンッ ……ドンッ ……ドンッ 寒さと恐怖で限界だった。 何時間そうしていただろうか。 気づくとあいつはいなくなっていた。 便所を出ると、ドアの外側が凹んでいた。 そして血と、犬の毛がこびりついている。 あいつがドアにぶつけていたのは、自分の連れていた犬だったのだろう。 でもドアにぶつけている間、犬の鳴き声は聞こえなかった。 あいつの「わん」という声以外は……。 しばらく2週間くらい大学を休んだ。その間、友人の部屋で寝泊りした。 おれと友人は同じ医学部生だ。講義と実習で、毎日大学へ通っている。 ある日、友人が言った。 「なあ、そのつんつるてん、なんでお前を追っかけたんだ?」 「知るかよ、そんなこと」 「追いかけられたからには、理由があるだろ? 理由が」 おれには見当もつかなかった。 あいつが追いかける理由……なぜ追いかけられたのか? 「逆に考えてみてさ、そいつに追われたときお前何してたよ? たとえばどんな格好してたかとか」 思い出しても心当たりがない。 ただ……。 「そういえば、黒いダウンジャケットを着てたな」 あいつに襲われた日は、思い返すと毎回黒いダウンを着ていた。 「うーん、お前の黒いダウンに何かあるんじゃないか?」 そう考えると、理不尽な話である。 黒いダウンを着ていただけで目を付けられ、追いかけられ、閉じこもったドアに,連れていた犬を投げつけられる……。
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