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ナツキの顔面は蒼白である。足から大量の血液が失われているはず。体温が低い。どうしたら、いいんだ。
ナツキが紫色の唇を震わせた。
「私、死ぬよ」
「…!」
俺は首を振った。
だめだ…死ぬのはだめだ!死んで欲しくないんだ…俺は、君を…
「さよなら」
「ダメだッ!」
俺は叫んだ。
俺の心を、何か違うものが支配していた。俺は立ち上がる。呆然と立っていたカズエが、俺を見てギョッとしたようだ。
俺はナツキを抱き抱え、運んだ。カズエはあっけに取られて俺を見ている。
俺は三階にあったリカオンのそばへ来た。パイロットの死体を引きずり出し、脇へ捨てる。薄目を開けているナツキと、俺は、リカオンに乗り込んだ。
狭い。
リカオンの風防ガラスをしめ、アクセルを踏み込む。
カズエが叫んだ。
「ヒロキ…!何してるのっ?どうするの…?」
煩わしい。うるさい。
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