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嫌な空気が漂い、関係無い一瀬も沈んだ顔をしていた。
いつの間にか初夏になっていたこの日。
青く澄んだ空は白い雲を浮かべ、夏へと確実に進んでいってるようだ。
真夏の予行練習でもするかのように太陽は三人を照り付けた。
でも僕ら三人は、冬が再び訪れたかのように暗い気持ちになっていた。
暖かい気温のはずなのに肌寒く、唇は熱を奪われ冷たくなっていた。
「じゃあ、今度は私がトモアキにチョコやっけん!」
無理矢理いつもの調子で彼女は言った。
「本命?」
彼女の態度に少し微笑みながら僕は言った。
「義理に決まっとったい!」
「ミユキちゃん!こいつ本気にしとらっばい!」
さっきまでの暗さを隠すように僕を茶化して笑った。
一瀬の顔も徐々に明るくなり、二人は僕を見ながら笑っている。
フワッと吹いた風が僕らを包み込む。
今年最後の春風は、僕らの冷えた体を温めると足早に去っていった。
誰からともなく見上げた空は少し赤みを帯びている。
一瀬に謝る事ができた。
ナツキちゃんともまた普通に話せるようになった。
マイナスが0になっただけだけど、ホッと肩の荷がおりた気がする。
僕は本格的な夏を前にして、やっと春を迎えたような気がした。
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