60人が本棚に入れています
本棚に追加
カウンターに置かれたグラスの水を一口含み、少女はようやく頭が冴えてくる。
ふと腕時計に視線を落とす。
八時三十分。
溜息が出た。
今日は学校から一旦家に帰り、制服のまま塾へ向かった。
十月も半ばに差し掛かったこの時期のこと、日が落ちるのは早く、六時半頃塾の近くまで来たところですっかり日が暮れ――。
その後は、覚えていない。
気がつけば塾とは駅を挟んで反対のこの場所にいた。
塾へは、行かなかったのだろう。
「はい、どうぞ」
カウンターの上に置かれたのは、一杯のラーメンだった。
そういえば、何の店なのかも聞かずに席についてしまっていた。
この美形のお兄さんはセールスや勧誘にも向いていそうだ。
ラーメンの匂いに、急な空腹感が少女を襲った。
昼の学食以降、何も口にしていないのだ。
食欲を誘う香りに誘われるまま割箸を手にし、すくった麺を一口。
その後、完食するまでにそう時間はかからなかった。
コクがあるのにしつこすぎず、あっさりしているようで軽すぎず。
絶妙なスープが絡みつく太めの縮れ麺。
乗せてある煮卵の半熟具合と味わいも絶品だった。
「ごちそうさま。すっごくおいしかったです!」
熱いラーメンに温まった身体は、先程までの沈んだ気分に浮力をつけてくれたようだった。
少女の言葉を聞いて嬉しそうに微笑む十夜の笑顔が、少女の心までも温める。
最初のコメントを投稿しよう!