1 闇にたゆたう

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 カウンターに置かれたグラスの水を一口含み、少女はようやく頭が冴えてくる。  ふと腕時計に視線を落とす。  八時三十分。  溜息が出た。  今日は学校から一旦家に帰り、制服のまま塾へ向かった。  十月も半ばに差し掛かったこの時期のこと、日が落ちるのは早く、六時半頃塾の近くまで来たところですっかり日が暮れ――。  その後は、覚えていない。  気がつけば塾とは駅を挟んで反対のこの場所にいた。  塾へは、行かなかったのだろう。 「はい、どうぞ」  カウンターの上に置かれたのは、一杯のラーメンだった。  そういえば、何の店なのかも聞かずに席についてしまっていた。  この美形のお兄さんはセールスや勧誘にも向いていそうだ。  ラーメンの匂いに、急な空腹感が少女を襲った。  昼の学食以降、何も口にしていないのだ。  食欲を誘う香りに誘われるまま割箸を手にし、すくった麺を一口。  その後、完食するまでにそう時間はかからなかった。  コクがあるのにしつこすぎず、あっさりしているようで軽すぎず。  絶妙なスープが絡みつく太めの縮れ麺。  乗せてある煮卵の半熟具合と味わいも絶品だった。 「ごちそうさま。すっごくおいしかったです!」  熱いラーメンに温まった身体は、先程までの沈んだ気分に浮力をつけてくれたようだった。  少女の言葉を聞いて嬉しそうに微笑む十夜の笑顔が、少女の心までも温める。  
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