ある日、それは突然に。

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そこにベルの音を聴いてか、顔がぁ………『個性的』な若い女が「いらっしゃい」の声と共に店の奥からやって来た。 まわりに俺以外客はいない。旅人なら昼か出発前の朝に来るだろうし、まわりの人も今から夕食を作り始める時間だ。 いないのは当たり前か。 丁度いい。干しブドウとやらはドレか聞いてみようじゃないか。 「すいません。干しブドウありますか?」 「あぁ~、干しブドウですね?コチラになりま~す。」 そう言って指差したのはあのしわくちゃな豆っぽいもの。 比較的安価ねぇ。 お偉方の感覚では安価なのね。わかります。 嗚呼、階級社会って恐ろしい。 ………でだ。このしわくちゃな豆(干しブドウ)って美味いの? この時初めて干しブドウを見た俺はこのしわくちゃな豆っぽいものが本当に食べ物なのかすら気になり、保険として試食してみたいな~なんて思った。キャビアなんかみたいに味はビミョーなのに高いというのだけは避けたい。 「あの~。試食とかは~…。」 「ムリですね。かなり高価な物ですから。」 女は顔の筋肉を醜く歪ませ……あっ、笑顔か。気味悪い笑みを浮かべて即答した。 この時、初対面の女を生理的にムリと感じたのは3回目だったと記憶している。
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