helen

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こつ、こつ、こつ。 美しさの欠片もない、古びたレンガ敷の歩道を盲目者用の白く長いステッキが不規則なリズムを踏んでいた。 金融街や劇場通りなどとは雲泥の差で、夜のこの街は下品に騒がしい。 ニューヨークの闇のディストリクトともいえるこの通りには、黒い空を奪い合うように猥雑なネオンがひしめき合っている。 白いステッキの持ち主――ヘレン・テイラーは両目に光を失っているため、ネオンの放つ鮮やかな蛍光や古い街灯、街を闊歩する刺青の男たちや艶やかな娼婦を視界におさめることはできない。
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