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それに、サリナには戦っているハンターにも心当たりがあった。
ポッケ村にドンドルマからハンターが修行に来ると村で噂になっていたのだ。
噂が本当なら、その人も単身で奴を相手にすることはできないだろう。
「クリス、その戦ってる人を助けて、逃げよう。うちらに敵う相手じゃない」
「わかったニャ。もうすぐそこニャ!」
ピリピリとした感覚が、どんどん強くなっていく。
洞窟を抜け、視界が開けた。
まずサリナの目に飛び込んで来たのは、血で雪を赤く染めたポポの死体だ。腹のところが食い千切られて見るも無惨な姿になっている。
さらにその向こうの方で竜の唸り声が聞こえる。
今まで聞いたことがない、獰猛な唸り声だ。
岩壁を回り込んだサリナに、竜が姿を現す。
――やはり
特徴的な翼のついた巨大な前足に、全体的に砂のような体色。ところどころ赤く見えるのは怒っているからだろう。
肌を刺すような殺気を放っているその竜の近くに、同じくらい禍々しい殺気を放つ人の姿をみとめたサリナは、怯みつつも声の限り叫んでいた。
「そこの人っ! 下がって! 逃げるのよ!」
だが全身血まみれのその男は声に答えることなく膝から崩れ落ちる。
しかし、よく見ると竜の方も血まみれのようだ。特に頭に深々と刀傷が刻まれている。
「くっ……」
とにかく注意をこちらに向けなれば……
ポーチの中から石ころを取り出し、頭の傷に向かって投げつける。
命中し、小さく仰け反った竜の眼前に間髪入れずに閃光玉を投げる。
光が弾け、直視した竜の視界を奪う。
さらに煙玉を使い、視力が戻ってもこちらを追ってこれないようにしておく。これだけやれば充分だろう。
サリナは男に駆け寄り、強引に引き起こして、背負う。すでに意識はないようで、男の体は泥を詰めたように重くサリナにのし掛かる。
「クリス、急いでネコタクをエリア5にまわしてっ!」
「了解だニャ!」
クリスは急いでアイルートンネルに駆け込む。
その尻尾が消えるのを見る前にサリナは男を背負って、視界を失って暴れる竜のいるエリア6からエリア5に逃げ込んだ。
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