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「ちょっと!しっかり!」
男に声をかけても返事はない。
岩影に男を引っ張り込んだサリナは、血だらけでもう防具の姿をなしていないほどボロボロになったマフモフ装備を脱がす。
「……っ!」
思わず息を飲む。男の脇腹は思ったよりも深くえぐれている。骨も何ヵ所も折れているようだ。
「よく……これで……」
そう思うのも無理はない。普通ならもう事切れているだろう。
だが、思ったよりも出血が少ないようだ。
おそらく、雪山の寒さで血管が収縮していたのだろう。
すぐに死ななかったのは運がよかったのか悪かったのか…
とにかく、最善を尽くすまでだ。クリスの呼んだネコタクが来るまでもう少しかかるだろう。
一番出血の激しい脇腹に回復薬を染み込ませたガーゼをあて、包帯を巻く。
これで出血は止まってくれるだろう。
あとは、右足の深い爪痕だ。こちらにも同じようにして処置をする。
細かい傷には軟膏状にした回復薬を塗り込んでガーゼをあて、ネンチャク草を加工したテープでとめる。
あとは体温がこれ以上下がらないようにホットドリンクと回復薬を飲ませる。
一通り手当てはしたが、容態は一刻を争う。
このままでは……
「旦那さんっ!」
そう思ったとき、ネコタクに乗ったクリスの声が響く。
「クリス!今すぐこの人を村に連れていって!一刻を争うわ!」
「わかったニャ!」
あわててクリスが応じる。
クリスを含めた三匹のアイルーは男を乗せたネコタクを押して脱兎のごとく坂を下っていき、じき見えなくなった。
第1章・完
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