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「く……そっ……」
疾い。雪の上だというのになんて速さだ。
一歩ずつ後ずさるジョシュアとの距離を一気に詰めてくる。
「ええいっ」
『そいつ』が体当たりをしてくる瞬間、ジョシュアはアレンを抱き抱えて横っ飛びに回避していた。
『そいつ』は避けられると思わなかったらしく、大きく体勢を崩している。
ジョシュアは素早く立ち上がりアレンに指示を出す。
「アレン、よく聞くんだ。 ポッケ村に行って救援を呼んできてくれ。俺が奴の気を引く。 このタイミングで、お前の足なら走り抜けられる。」
「で、でも……ジョシュアは……」
「なに、助けが来るまでくらいなら大丈夫だ。 だから急いで!」
「……わかったニャ!」
立ち上がった『そいつ』は走り抜けるアレンに狙いを定める。……が
「お前の相手はこっちだ!トカゲ野郎!」
ジョシュアが悪態をつきながらペイントボールを顔面に投げつける。
『そいつ』の顔面にピンク色のペイント液が付着し、独特の臭いが漂う。
臭いに怒ったのか、悪態が聞こえたのか。とにかく『そいつ』は攻撃対象をこちらに変えてくれたようだ。
「さてさて、これからどうするか…」
自慢じゃないが、まったく勝てる気がしない。いやむしろ、救援が来るまでに死ねる自信もある。
あんなのから一人で逃げ切れる訳もない。
だかアレンだけでも助かったならそれでいいとも思う。
ならばせめて……
「悪ぃ……アリシア……」
ジョシュアは震える腕に力を込めて、背負った太刀『鉄刀』を抜き放つ。
白く硬い鋼の刀身は雪の照り返しを受けて紅に輝いていた。
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