桐一葉-秋Ⅰ-

2/9
前へ
/96ページ
次へ
「おーい!京に行った歳から文が来たぞー!」 ある晴れた秋の日。 土方さんのお姉さんの夫である彦五郎さんが、私が働く試衛館へとやって来た。 「彦五郎さん!お久しぶりです!」 私はここで、女中のようなことをしている。 例えば、送られてきた文を取りに行くのも、私の役目。 総司さんたちが京に行ってしまってからも、私はここで仕事を続けている。 「お、由果ちゃん久しぶりー。また綺麗になったね」 はい、これはお土産、と彦五郎さんは大福を差し出す。 「ありがとうございます!」 「一人分しかないからね、誰もいないところで食べるんだよ」 と、彦五郎さんは小声で言う。 「はい、分かりました」 と笑顔で答える。 「じゃ、俺はこれで」 と彦五郎さんは帰ろうとする。 「え、もう帰っちゃうんですか?お茶一杯ぐらい飲んでいったらどうですか?」 と私は止めたが、彼はまだ仕事があるからと帰っていった。 私も、一度履いた下駄を脱ぎ、中へと入っていった。 .
/96ページ

最初のコメントを投稿しよう!

55人が本棚に入れています
本棚に追加