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「…………何、らしくない事してるんですか」
驚きはすでに通り越した。震える曜子の声には純粋な疑問だけが浮かぶ。
ぼんやりと思考を覆っていた霞もいつの間にかどこかへ吹っ飛んだ。
銃の冷たい感触も弾が貫通した痛みもない。
代わりに曜子にあったのは温かさ。
何年ぶりかに感じた人の温かさ。
「私を殺すんでしょーが。アンタ本当に何してるんですか」
「……殺すに決まってんだろ。何ならこのまま圧死させてやろうか?」
佐藤は曜子の背中に回した手に力を込めた。
抱きしめた所から、重なっている雨に濡れた服同士が、さらに二人の距離を縮めるように吸い付きあった。
苦しい、苦しいです、と曜子が抗議をするも佐藤は離す気配がない。
ただその強い力は、ひどく優しく感じた。
「……よく分かりません。あなたのやってる事」
「……俺も。何やってんだかな」
嘘だ。
わかっている。
だから苦しい。
とにかく嬉しくて悲しくて、苦しい。
何が、と問われれば明確には答えられないけど。
どうして、と問われれば明確に答えられる気がした。
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