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「まさかマジで見逃してくれるつもりですか」
「馬鹿言え。殺すって何回言わせるつもりだ」
「……やっぱ残酷ですね、あなたは」
カチャリと曜子の額に銃を構えなおすが、佐藤は一向に離れる気配すらない。
彼はわかっているのだ。
もし今ここで
銃を(プライドを)捨てて
仕事を(誇りを)捨てて
曜子の白い手を握って逃げ出しても
曜子が笑わない事を
(馬鹿、だなぁ)
――私はあなたに笑ってほしいって言ってるのに。
「……離してくださいよ。やーだなぁ、死の間際だっていうのに期待しちゃうじゃないですか」
「離してほしいならお前も離せよ。お前の手が邪魔して離れられねぇ」
殺すと言いながらいつものように笑ってくれない彼
相手に一方的に笑ってくれと頼みながら静かに泣く自分
我が侭だと思う。
自分も彼も。
「こんな展開は計画外ですよ。下手なラブドラマの主人公気取りですか?」
「はっ、死ぬ間際のくせには本当によく喋りやがる。黙ってラブドラマのヒロイン気取ってろ」
彼の笑顔が好きだった。
誇った彼が美しかった。
だから笑ってほしかった。
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