278人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
路地に響いた乾いた音を潤すように、彼女の赤い液体は雨と混ざった。
(残酷なのはどっちだよ)
――笑って殺して?
彼が笑って引金を引いたら
彼女は笑った。
(笑えるわけないだろ)
たまっていた涙が次第に溢れ、それにつられるように膝も崩れた。
無理して保っていた冷静な仮面がはがれていく。
一瞬でいい。誰か仕事を放り出す事を許してくれ。
そうしたら思いきり泣いて
そのまま後を追えるのに、なんて
病的でカッコ悪く決して許されない、
けれど切実な願い。
それでも彼が崩さないのは
一つの笑顔。
どんなに悲しくて
どんなに辛くて
どんなに泣いても
(いびつでよければ、笑っててやるよ)
償いなんてできないし
罰なんて受ける立場でもない
だけど、せめて。
仕事を、殺しをする自分に彼女が願った
笑顔という名の誇りだけは捨てずに。
――いつまでも彼女が好きと言った自分で
だから笑った。
笑顔のままの屍の隣で
彼は笑った。
end
最初のコメントを投稿しよう!