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佐藤 斎は彼女……稲川 曜子から見ても、すごい男だった。
一にも二にも仕事、仕事。楽しそうに笑う彼の目には仕事しか映っていなかったのだ。
普段は冷静で無口な彼の目には仕事以外は映っていなかったのだ。
それも、普通の仕事ではない。国家の特別機関の実行要員。銃の所持や必要ならば殺害を許可された、公表できないような裏の仕事だった。
しかし、佐藤はその仕事に誇りと絶対的な自信を持っている。
だからそんな血生臭い仕事でも、笑って実行できるのだ。
だから仕事をする彼は輝いているのだ。
それこそ、『スパイ』としてそこへ潜り込んだ彼女すらも目で追ってしまうほどに。
今となってはそれがいけなかったのだろう。
理性なんてなかったのかもしれない。
スパイである自分が彼を瞳に映すことが、何を意味するかはわかっていたはずなのに。
どちらかを捨てていたら、きっと今、こんなにまで悲しくはなかっただろうに。
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