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「……人を殺す仕事は、辛いですか?」
「仕事は楽しい」
何気なく聞いた曜子に、佐藤は何気なく返す。
やっぱりか、とヘラッと笑って曜子は続ける。
「私を殺すんですか?」
「そうしないと、俺も上から消されるんでね。機密を盗まれたとなったら俺の責任問題だ」
「奇遇ですね。私もこの情報を上に届けないと消されるんですよ」
「その前に俺が殺す」
事もなにげに物騒な事を言う彼に耐性でもできたのだろうか、恐怖は込み上げない。
確かに最初は戦慄したものだ。
裏切り者を殺し、血にまみれた顔で振り向いた時のあの薄くて綺麗な笑顔。
かりそめの部下という立場で見ていた、そう歳も変わらない男。それが化け物のように感じた。
だが、今はどうだ。
笑顔で仕事をこなす彼に、一種の憧れすら覚えている自分がいる。
彼に目を奪われた自分がいる。
それは尊敬というのか。長い事、近くで働いてきたために生まれた情とでもいうのか。
……それとも。
「……じゃ……殺すんですね、私を」
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