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諦めたように言った曜子に静かに頷く佐藤。
もうあがくだけ無駄だと悟った曜子はわかりました、とだけ言ってうつ向く。
しばらく雨の音だけが響いていた。
◆◇◆◇
「なぁ」
この体勢になってから何分経っただろう。
今か今かと死を待つ曜子にやがて浴びせられたのは銃弾ではなかった。
「どうして今日、実行したんだ」
佐藤の問いに曜子はボンヤリする頭を傾げた。
自分でもよくわからない。
この数年間ずっとこの機密を盗むために潜んでいた。チャンスは他にいくらでもあったはずなのに、よりによって今日、それを実行したのはどうしてだったか。
こんな雨の降る、佐藤が非番でも何でもない……こんな逃げにくい日に。
「……何ででしょうね……」
まるで問題に答えられなかったお調子者の小学生のように軽く笑う。
馬鹿な話だ。
仕事に関してはいつだって完璧で優秀だった自分はこの男の前では顔を引っ込める。
「早く殺してくださいよ。出血多量で死ぬなんてカッコ悪い死に方はヤです」
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