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曜子はというと無表情のまま。
ただ無表情のまま
目だけを悲しみに染めている。
「あなたは仕事の時、必ず笑ってます。何で今は笑ってないんですか」
仕事の時……つまり人を殺すとき。
今この瞬間も然り。
ならば、何故。
――笑ってないの?
曜子の淡々とした言葉は彼の胸の奥まで入っていき、次第に佐藤の目の中に動揺を誘った。
「仕事が、楽しいんでしょう?好きなんでしょう?だから笑うんでしょう」
血が抜け雨に打たれ、冷たくなりかけた体のわりには曜子は饒舌だ。
問いかけというよりは確認のような物言いに佐藤は頷く事も否定することもしない。
しかし曜子にはわかる。
聞くまでもなく肯定なのだろう。
何も言わない佐藤に不意に曜子が微笑んだ。
歪で力のない、けれど綺麗な笑顔だった。
「笑ってくださいよ」
笑って仕事をしている佐藤を本当に、本当にすごいと思っていた。
正義も常識も越えた場所に立ちながら楽しげに笑う、その眩しさによく目を細めた。
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