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「みちるさん? 戻りましょう?」
社長の背中を見送りながら昔の事を思い返していた。
千波ちゃんの声にハッとして笑顔を作る。
「あ、うん、社長にお茶出さないとね。今日は私の当番だった」
社長が私と似ていようが、私には関係無い。
私は今まで通り、当たり障りなく生きていくだけだ。
秘書課に戻った私は、堂本さんに蹴られている千波ちゃんを後目に、社長室へお茶を持っていった。
社長は太鼓のゲームのバチをカチカチ鳴らしながら外を眺めていた。
「やぁ、みちるちゃん、ありがとう」
にっこりと笑う社長。
……やっぱり千波ちゃんの時とは違う。
なんだか悔しい。
悔しい……?
本当の笑顔を向ける相手がいる社長に対して?
それとも何の苦労もなく、そんな笑顔を向けてもらえる千波ちゃんに対して?
……馬鹿馬鹿しい。
そんなつまらない嫉妬。
昔の事を思い出したからだ。
私は応接用のテーブルにお茶を置くと、社長に一礼して踵を返した。
「みちるちゃん」
社長の声に振り返ると、いつの間にか社長は私の真後ろに立っていた。
「……なんでしょうか」
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