鳥居

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 一歩敷地に入ると異様な空気が包み込む。社殿こそ寂れてはいないが、起伏の激しい道は石畳があちこち剥がれ、雑草が顔を出しているし、所々植えられた神木は空を覆い隠し、まだ日も高いというのに辺り一帯は薄暗かった。外装が剥がれかけた鳥居を抜け本殿に着く。 「すみません」  境内に向かって呼びかけたが誰も出てこない。ザワザワと木々が揺れる音とともに少し寒いくらいの風が通り抜けた。 「すみません!」  怒鳴り気味に声を掛けるとやっと奥から返事が返ってきた。  白いTシャツにジーンズ姿の中年らしき男が、左手の縁側からのそりと現れた。とてもここの関係者とは思えない。 「おたくどちらさん?」  くぐもった声でそう訪ねる。眉間には皺が刻まれ、不快そうな表情を表に出すことを躊躇う様子はなかった。  何とも意外な答えが返ってきた。 「先日お電話致しました浅井と申します。この度は……」 「ああ、ああ、民俗学の研究ってやつ?私が神主の荒井です。資料のある所まで案内しますから勝手に見てって下さい」  とても神主とは思えぬその男が気だるそうに言うと、後についてくるように身振りで示し、元来た方へ歩いていった。
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