第七章 水澱

15/20
前へ
/90ページ
次へ
「確かに、あたしは"ろくでなし"かもしれない。 自分が上に登れるなら、どんなことでもやるような人間だった。 学費を稼ぐためだったら、生活費を稼ぐためだったら、詐欺を働いている人に手を貸したことだってあった。 年齢を偽って売春をしたことだってあった。スケベな親父から根こそぎ有り金巻き上げたことだったあった。 友達だって、恋人だって出来たことなんて無い。誰かを幸せにしたことだって一度も無い。 だけど、敷島さんは…敷島さんは、違う。あたしはそんなつもりで近づいたんじゃない。 本当に…本当に生まれて初めて、好きになった初めての男の人だった。 生まれて初めて、あたしに下心を持たないで接してくれた、男の人だった。 この人なら、あたしを幸せにしてくれるって、あたしはそう信じていた。 あたしは、ただ、幸せを味わいたかった。 もう、痛めつけられるのは嫌だった。誰かに…誰かに助けてもらいたかった。それだけだけ、それだけだった…」 我慢していた感情と、拒否された感情とが混ざり、次第に彼女の言葉は聞き取れなくなっていった。
/90ページ

最初のコメントを投稿しよう!

75人が本棚に入れています
本棚に追加