第七章 水澱

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高城は静かに立ち上がると、窓の方へと近づいた。 そして、濁った水槽の前に立つと、先ほど拾い上げたペーパーナイフを、その中へと落とした。 「失うことに意味はない。だが、失うことへの恐怖は、巨大すぎる」 鈍い水の音と重い彼の言葉が、静かになった部屋内に響き渡る。 独り言のように、高城は中野と敷島を背にして語りかけた。 「恐怖心が人間を狂わせ、馬鹿げた行動をとらせてしまう。自分の居場所を放り出し、仲間を見捨て、挙句には命すら絶とうとする。まさに、今の君たちがその姿だ。君たちは、普段ならば間違っても考え付かない愚かな選択肢を、真剣に考えていた」
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