第七章 水澱

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「きれい…」 ぽつりと、誰にも聞き取れないような小さな声で、中野は漏らした。 薄汚れた水槽を眺める二人の元へ、敷島も近づいてきた。 先の辞令書を丸く押し固めると、水槽の中へ押し込むように入れた。 水分を吸ったその紙は、ゆっくりと底へと沈んでいった。 「どうすればいいのか、分からなくなってしまった」 高城の横に並んだ敷島が、彼同様に水槽を見下ろしながら、呟いた。 三人はそれからも、しばらくの間無言でその水槽を眺め続けていた。
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